第69回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第69回研究例会

日時:2019年6月8日(土曜日)15時~18時

会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階738号室

最寄り駅:本郷三丁目駅(地下鉄丸の内線、大江戸線)
■アクセス:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_02_j.html
■建物位置:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_08_02_j.html

赤門を入り右手の建物です。


▽発表者1: 澁谷秋氏(東京大学大学院人文社会系研究科 韓国朝鮮文化研究専攻 博士課程)

◎題目: 蔵書閣所蔵『續三綱行實圖』の書誌学的考察

【発表要旨】

 本研究は韓国の韓国学中央研究院蔵書閣に所蔵される『續三綱行實圖』について書誌学な側面から検討するものである。

 『續三綱行實圖』は申用漑らが1512(中宗7)年に王命を受け編纂を開始し,成宗代に刊行された『三綱行實圖』以降の孝子36人,忠臣5人,烈女28人の事績を収録し,1514(中宗9)年に刊行された3巻1冊の木版本である。『三綱行實圖』の続編ともいえるこの本は『三綱行實圖』にしたがって,表面に絵を描き,裏面に漢文で説明と詩をつけ,欄上に諺解を加える形式をとる。

 従来,現存する原刊本系列の刊本はすべて原刊本ではなく,原刊本をもとに重刊されたものと考えられていた。蔵書閣に所蔵される『續三綱行實圖』も原刊本系列の刊本であると認められつつも,漢字音を現実漢字音につくるほか,重刊本から加えられるとされる「續忠臣圖」の六人目の物語「深源斥姦」を有すなど後代の特徴が見られ,先行研究ではほとんど言及されてこなかった。

 発表者の調査により大英図書館に所蔵される『續三綱行實圖』が原刊本であることが明らかになり,韓国学中央研究院蔵書閣が公開しているマイクロフィルム資料をもとに版の比較を行ったところ蔵書閣に所蔵される『續三綱行實圖』が大英図書館本の後刷本であることが明らかになった。本発表では蔵書閣で新たに行った原本調査の結果をもとに考察した。考察の結果明らかになったことは以下の点である。

 (1)蔵書閣本は原刊本の後刷本である。
 (2)原刊本と同版の張と,一部ないしは全体を原刊本を版下に重刻した張が混在する。
 (3)蔵書閣本が持つ「續忠臣圖」の六人目の物語「深源斥姦」は原刊本のために限定的に刷られた張である。
 (4)重刻された張で漢字音が現実音に不規則に交替する。
 (5)テクストに後代の特徴がみられる。



▽発表者2:重岡こなつ氏( 東京大学大学院人文社会系研究科 韓国朝鮮文化研究専攻 博士課程)

◎題目: 日本で「巫堂」として生きること:ニューカマー韓国人巫者の語りに注目して

【発表要旨】

 朝鮮半島の民間信仰である巫俗(무속)は、日本において在日コリアンを中心に実践されてきた。日本における巫俗としては、1981年の生駒山系宗教共同調査( 宗教社会学の会 1985)が発端となり見出だされた「朝鮮寺(在日コリアン寺院)」の事例がよく知られているが、巫者の高齢化や後継者不足により朝鮮寺を中心とする信仰実践は1990年代以降衰退傾向にあるという見方が大半である。

 現代の韓国社会に眼を向ければ、変動の激しい都市生活の中で、とりわけ市場経済の影響を受けやすい小規模事業者・経営者が巫俗の新たな担い手になっていることが指摘されている(Kendall 2009)。韓国の事例から近代化や都市化は必ずしも民間信仰の衰退を意味しないと仮定でき、発表者は日本の都市部への韓国巫俗の進出に関する研究を補完すべく東京都新宿区を中心に調査を続けている。今回の発表では、日本で活動するニューカマー韓国人巫者を対象におこなったインタビュー調査を資料として使用し、10数年に及ぶ日本での活動について事務所の移転とそれに伴う相談者層の変化に着目し分析を加えたい。

 新宿区におけるニューカマー韓国人巫者は、地縁・血縁といった人的ネットワークを前提としない活動を展開している点で特徴的である。日本において巫業を営むということは、韓国人や在日コリアン以外の相談者との出会いを巫者にもたらしただけでない。「占い」を目的とする相談者の増加や、韓流ブームとそれに関連するマス・メディアの影響は、巫者にとって「巫堂」としての自己を再帰的に捉えなおす契機となった。

 わずかな事例からは、当該地域の特性、ましてや日本における巫俗信仰全体としての傾向を示すことはできないが、日本における巫俗の新たな展開、あるいはグローバルな現象としての巫俗、信仰実践の一側面としてこれらの部分に注目した考察をおこないたい。

参照文献
宗教社会学の会(編)
1985 『生駒の神々 : 現代都市の民俗宗教』創元社。
KENDALL Laurel
2009 Shamans, nostalgias, and the IMF: South Korean popular religion in motion. University of Hawaii Press.


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