第32回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第32回研究例会

原則的には「偶数月第一土曜日」を例会の日としています。ただし8月は夏休み、10月には大会がありますので、例会はお休みとなります。
 発表者は随時募集しています。事務局(下記)までお問い合わせ下さい。


日時:2009年6月13日(土曜日) 午後2時~6時

会場:同志社大学・今出川キャンパス・弘風館K49教室(4階)

最寄り駅:地下鉄今出川駅(烏丸線)下車徒歩3分
アクセス http://www.doshisha.ac.jp/access/ima_access.html
建物位置 http://www.doshisha.ac.jp/access/ima_campus.html

【発表1】

○発表者:呉仁済(立命館大学・法学研究科・院)
▽発表題目:韓国の過去事清算制度について

 1987年の6月民主抗争以降、韓国では「国家暴力によって引き起こされた過去の事件」(過去事)に関する清算作業が進んだ。

 盧泰愚政権は5・18民主化運動の補償問題に取りかかり、金泳三政権はこれを責任者処罰まで発展させる一方、居昌事件などの朝鮮戦争期の虐殺問題も取り上げ、日帝期の「慰安婦」被害者に対する生活支援も開始した。金大中政権は5・18民主有功者を礼遇する法律を制定し継続して5・18問題を取り上げながら、済州4・3事件、朴正煕政権以降の疑問死事件、民主化運動関連者の名誉回復・補償問題などの目玉となる三法に加え、国家人権委員会法などもつくった。盧武鉉政権は、「過去の歴史において争点となった諸事案を包括的に扱う真相糾明特別委員会」の設置を提案し、〈東学名誉回復法〉〈強制動員真相糾明法〉〈親日真相糾明法〉〈親日財産国家帰属法〉や〈老斤里名誉回復法〉〈三清補償法〉〈軍疑問死真相糾明法〉など、朝鮮近代史と韓国現代史における事件を対象とする法律を次々と制定していった。それまでの過去事清算立法の集大成と位置づけられているのが〈過去事法〉であるが、この法律の制定後も〈ハンセン真相糾明法〉や〈強制動員犠牲者支援法〉など、政権末期まで立法努力がつづいた。李明博政権はこのような立法の動きに歯止めをかけただけでなく、過去事関連委員会の縮小を図るなどの動きをみせており、政界における過去事清算の枠組みづくりは一定の山場を越したというべきであろう。

 本報告では、一定程度立法の動きが止まったと思われる盧武鉉政権から李明博政権への移行を一つの区切りとして、1987年の民主化から盧政権までに整備された過去事清算の法・制度面に注目し、その歴史、制度、原則、方法などについてできる限り全体像を眺望する。併せて、過去事清算の意義が何であるかについても言及する。

【発表2】

○発表者:孫片田晶(京都大学・文学研究科・院)
▽発表題目:実践のコミュニティにおける在日3世のアイデンティティの展開 ―韓学同京都の活動実践から―

 従来の在日朝鮮人アイデンティティ研究は、アイデンティティの問題において個人の内的葛藤の解消を目的化する、いわば「心理学的モデル」が優勢だった。これに対し、本報告は、在日朝鮮人の一学生団体「在日韓国学生同盟京都府本部」の参与観察にもとづき、在日朝鮮人のアイデンティティの問題に、社会的実践としての視角を与える必要性と有効性を考察する。社会人類学者の田辺繁治らは、マイノリティがアイデンティティの再構築を行う自助運動コミュニティを「実践コミュニティ」(実践共同体)として記述する視点を提起しているが、本報告では、これを参考にしながら、在日朝鮮人のエスニック・アイデンティティを実践のコミュニティにおける参加=学習として、コミュニティの中に配置された知や技能の習得、専有化の過程と関連させて描いてみたい。

 具体的方法としては、まずこの団体の機関誌の言説分析から、現在の3世以降の若者たちによる新しい運動のアイデンティティ言説を跡づける。その上で、このコミュニティにおける学習過程が、当事者にとって有用なエスニック・アイデンティティの再構築を可能にしていることを論じる。1990年代以降に形成された「在日韓国学生同盟京都府本部」の新たな運動は、集合的アイデンティティの構築において、マイノリティ自助グループにしばしば見られるような成員の個人史への積極的な注目を用いる。その活動実践によって、多様な差異をはらむ個人史を生きる個々の在日学生が共同的に「在日朝鮮人になる」プロセスが豊かに言語化され、成員間に共有されていく。この運動は、従来の在日朝鮮人アイデンティティ研究の「心理学的モデル」に対する代案を示唆すると同時に、差異に対する積極的なアイデンティティ戦略として、在日朝鮮人のアイデンティティの政治に関する再考を促すものでもあると考えられる。本報告では以上のような理論的視角の可能性を提起し、今後の課題を提示したい。

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