第18回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第18回研究例会

日時:2005年12月3日(土曜日) 午後3時~7時

▽発表者: 中村八重氏(広島大学大学院国際協力研究科)
▽タイトル:韓国における臓器移植推進の論理と儒教的価値観
     -キリスト教系推進団体を事例に-

韓国では脳死者からの臓器移植件数は900件以上あり、生体移植についても移植件数は非常に多い。その一方で一般的に伝統文化である儒教が臓器移植を阻害していると言われている。文化と臓器移植を二項対立的にとらえるこの見方は、固有文化が臓器移植を受容できないとする日本の文化論的な論理と同じ構造である。だが、伝統的価値観が新たな医療技術の発展を阻害するという論理では、儒教社会とされながら移植が数多く行なわれている韓国の状況を十分に説明することはできない。
 そこで本発表では、実際に行なわれている臓器移植の事例から、その中に現れる儒教的な価値観を検討していく。具体的には韓国で臓器移植推進の中心的役割を果たしているキリスト教系の臓器移植推進団体を取り上げ、この団体がすすめる「リレー移植」活動、及び推進運動の論理を見ていくことにしたい。
 「リレー移植」とは、レシピエントの家族の中から一人が他人に腎臓を提供する生体移植の方法のひとつである。他人に臓器提供をするため「リレー移植」は、キリスト教的な意味の「隣人愛」のイメージが団体やマスメディアによって作り上げられているが、実際には家族の救済がその目的である。一方で、生体移植は推進団体やマスメディアによって、夫婦愛や孝の実践として鼓舞され礼賛される。キリスト教系の臓器移植推進運動及びその活動において、実は儒教的な価値観が否定されず利用されている。この点から考えると、儒教は排他的に臓器移植を阻害しているのではなく、むしろ促進するひとつの要素になりえている。

▽発表者: 仁平義明氏(東北大学文学研究科心理学講座) 
▽タイトル:3つの質問紙調査からみた日本と韓国
     ―“身体接触”・“原因帰属”・“ゆるしの条件”―

3つの質問紙調査結果にあらわれた、日本と韓国の差異について報告する。調査は、
①身体接触、②原因帰属、③ゆるしの条件に関するもので、それぞれ別個な研究の一部である。
(1)身体接触
 さまざまな部位・接触形態・対象者との身体接触について、主観的頻度、心理的許容度の評定を求めた。日韓比較での調査対象者は、大学生である。因子分析の結果からは、日本人の身体接触の因子数は韓国に比べて少なく、韓国の方が身体接触はコミュニケーションとして多様な意味を持っていることが示唆された。また、身体接触への許容度は、何種類かの対人関係の中で、すべて韓国の方がはるかに高かった。
(2)原因帰属
 出来事の原因が何にあるか(たとえば、運、状況、自分の努力、他者の力など)の判断についての調査。対象となる出来事は、わが子の問題(不登校、志望校の合格)、健康上の問題、仕事上の問題、対人上の問題(友人とのいさかい等)ほか。小学生以上の子を持つ親への調査。多様な差異の中でも、とくに興味深いのは、「わが子に起こった出来事」の原因帰属であった。アメリカの親は、わが子に起こった出来事はプラス・マイナスにかかわらず子どもに原因があったという「子ども中心の原因帰属」(「個人主義的な原因帰属」)をすることが報告されていたが、日韓ともにそれとは異なる傾向がみられた。日本の親では、プラスのことは子どもに原因があったとしながら、不登校などのマイナスなことは親にも原因があるとする「謙遜文化の原因帰属」をする傾向があり、韓国の親ではわが子に起こったプラス・マイナスの出来事両方とも親にも原因を帰属させる「家族共同体主義的な原因帰属」を行う傾向があった。
(3)ゆるしの条件
 被害を受けたときに、相手を“ゆるす”ためにどのような条件が必要だと考えるかについての調査である。4つの想定ケースについて、謝罪/反省・理由の説明・被害側の感情の吐露(自分がどれだけつらかったか、相手がどれだけひどいことをしたのか)・再発防止の約束・報復・賠償・処罰・時の経過ほかが、ゆるしの条件としてどの程度必要かを評定させた。
 因子分析の結果、日本では、因子は被害が相対的に重大かどうかによりまとまる傾向(“結果主義”)があり、韓国では、個々の被害ケースごとにまとまる傾向(“情状主義”)があった。ゆるしの条件として、日本の結果主義は厳罰主義につながる結果になっており、韓国の情状主義は相対的に軽い被害でも日本よりも「被害側の感情の吐露」を重視する結果につながっていた。

会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟・738番教室

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