第21回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第21回研究例会

日時:2007年6月10日(土曜日) 午後3時~7時

【発表1】

▽発表者:小谷幸子(総合研究大学院大学 文化科学研究科比較文化学専攻)
○発表題目:在米コリアンをとりまく日常的景観からみた現代日系商業空間の創成と維持 ―サンフランシスコ日本町を事例として

 米国在住の朝鮮半島出身者およびその子孫を対象とする在米コリアン研究は、100年強の移民史を背景として強調しつつも、その主要な研究の担い手、対象者という意味においては、米国移民法の改正を契機にアジアやラテンアメリカからの移民が本格化した1965年以降の渡米者を中心に議論が交わされてきた。なかでも、都市において中小規模の小売業に従事する在米コリアンをめぐっては、1970年代からかなりの研究蓄積があり、1990年代に入るとロス暴動に象徴されるコリアン系商人とアフリカ系アメリカ人と呼ばれる人びととの人種的対立関係を扱う研究が急増した。しかしながら、在米コリアンが日本製および日本的な食品、日用品、メディアなどの流通、販売、消費をめぐる諸局面にかかわり、商品としての日本文化を媒介する社会的空間の構築に関与してきた側面については、日常的なレベルで認識されつつも、ほとんど取り上げられてこなかった。
 本発表はこのような研究上の盲点に着目し、現代的な日系商業空間としての今日のサンフランシスコ日本町を拠点として、ビジネスや生活を営んできた在米コリアンの存在に焦点をあてる。サンフランシスコ日本町は全米に現存する三つのジャパンタウンのうちのひとつであり、残り二つのジャパンタウンと同じく、現在、世代が進み自営業離れが進む日系移民出身者の穴を埋めるように、コリアン系をはじめとする非日系ビジネスの進出と拡大がみられる。このような傾向に連動して、近年、多文化主義を掲げるサンフランシスコ市政を巻き込みながら、日本町保護運動の名のもとに、失われつつある旧日系人集住地区としての歴史性を継承するための方策が模索されている。その鍵として強調されるのが地域経済振興の重要性であり、アニメなど現代的な日本文化の商品価値を再評価する動きも見られる。本発表では、このような今日のサンフランシスコ日本町をめぐる移民、ビジネス、場所をめぐる多文化錯綜的な連鎖関係から、在米コリアン研究の可能性を探りたい。

【発表2】

▽発表者:菊池 勇次(九州大学大学院)
○発表表題:韓国における近代建築の残存状況と保存政策~日本統治期以前の建築物を中心に

 韓国における近代建築は1995年に解体された朝鮮総督府をはじめ、ソウル駅舎などいくつかの近代建築が日本でも知られている。このうち、一部の著名な近代建築については、1970年代から文化財の指定を受けるなどの保護対策がとられているが、それ以外の近代建築については、全般的な残存状況――どのような建物がいつ・どこで・どれくらい建てられ、かつ残っているか――に関するまとまった調査が行われておらず、その全体像を把握することは困難であった。
 ところが、2000年2月、文化財庁が近代文化遺産の積極的な保存に乗り出すと発表。全国の広域自治体(市道)から保存価値のある近代建築のリストを提出させて現地調査を行なうとともに、全国の自治体を通じて近代建築の全数調査を行なうとした。
 この方針の下、2001年7月に登録文化財制度が施行されると、近代建築に関する調査・保存の動きがにわかに活発化し、各自治体の全数調査報告書が2003年より出始め、文化財庁は2005年5月に約5000件をリストに登載したと発表し、調査結果を反映した文化財登録が現在進められている。
 この約5000件に達する近代建築リストには、産業遺構や日本式建築、神社なども含まれており、建築時期は1960年代までをカバーしている。また、調査は各広域自治体(特別市・広域市・道)に委任され、報告書も各自治体から個別に発刊されているものの、調査結果を記入するシートは全国でほぼ同一のものが用いられているため、全国を網羅したデータの取りまとめ・分析が容易になっている。
 ただし、近代建築のリストアップ作業に関しては一定の基準がなく、必ずしも現存する近代建築を網羅し尽くしたものとは言えないのが実情であるが、韓国で初めて網羅的かつ体系的に行なわれた調査であるという点で、貴重な資料であることには疑問の余地がない。
 そこで、本発表ではこの約5000件に達するリストの内、日本統治期以前に建てられた建築構造物(動産は除く)を再抽出し、全国及び各地方別の残存状況とその傾向について分析し、あわせて現在活発化している近代建築の保存・活用の動向を紹介していきたい。

会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟・738番教室

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