第15回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第15回研究例会

日時:2005年2月11日(土曜日) 午後3時~7時

【発表1】

発表者:鄭大成(高麗大学客員研究員)

タイトル:実学、東道西器論、そして西学へ:木浦安東金氏一家三代にみる伝統と近代

発表概要:
 最近韓国で完結した、少年向けだがビジュアルな『韓国生活史博物館』(全12 巻)の第11巻「朝鮮(3)」に、朝鮮最後の士(ソンビ)として「異様船」つまり西洋と出会った金炳昱、韓末の洋務官僚・外交官であり開港都市木浦開発の立役者でもあった金星圭、文学を学び近代演劇の先駆者となった金祐鎮、社会主義者として活躍した金哲鎮、北京大学に学んだ「アナーキスト」金益鎮という、安東金氏一家三代の家族史が興味深く紹介されているが、記述に間違いも見られる。
 この本の企画とは全く無縁だがアイデアは偶然にも一致した本研究は、このテーマを先行研究の成果のもとに深めつつ、新たな観点と事実を提供しようとするものである。
 金炳昱の実学思想と経世・外交論における東道西器論への移行(『磊棲集』)、金星圭の東道西器思想(家学の継承と新旧学問の折衷)と官僚型地主から経営型地主への移行と家訓(『草亭集』)、金祐鎮の父との漢詩唱和・対立と熊本・早稲田留学と社会進化論受容による「生命力」思想と演劇・文学活動(『金祐鎮全集』)、金哲鎮の熊本・日大・同志社留学とマルクス主義思想と新幹会・言論・教育活動、金益鎮の北京大留学に始まる中国での活躍とレールム・ノヴァールム(Rerum Novarum)的カトリシズムと土地解放と自由主義・カトリックの土着化への努力(『金益鎮文集』)、などというふうに、各者のテクストに基づいて具体的な思想と行動の内容に迫りつつ、民乱やウェスタン・インパクト(雲揚号事件など)による衛正斥邪運動と実学の変容、開港・東学農民戦争・義兵闘争・植民地(近代)化と地方名望家・自強論者の対応、植民地下のロマン主義と文化運動と青年・労働運動、8・15後の冷戦反共体制・近代化とキリスト教など、各段階での歴史的背景と社会的関係をも視野に入れて世代間の断絶と連続の様相を立体的・有機的に探ってみたい。
 またできれば、朝鮮朝時代における勢道政治(先祖・親戚)との関係や現代韓国における子孫たちの活躍にもふれるとともに、本研究の今日的意義にまで言及できればと思う。

【発表2】

発表者:柳美那(早稲田大学文学研究科COE客員研究助手)

タイトル:植民地期朝鮮における儒教イデオロギーの再編:経学院と明倫学院の設立を中心に

発表概要:
 植民地期の朝鮮社会を理解するには、朝鮮王朝時代の国家理念たる儒教がいか なる変化を遂げたのか、とりわけ儒教の象徴機関たる成均館の改編およびそれに対応する在地儒林勢力との関係を解明することが、重要な問題である。
 しかし、従来の植民地期朝鮮における儒教については、主として支配と抵抗という二項対立的な理解が強く、成均館の改編過程やその目的等に関して研究の蓄積が不十分であるため、その活動には不明な点が多い。
 本報告は、旧来の成均館を改編し、1911年に朝鮮総督府が設立した経学院とその付設教育機関である明倫学院を分析し、植民地期朝鮮社会における儒教の位置づけを考察するものである。それと同時に、朝鮮総督府の経学院および明倫学院の設立目的と各地方の儒林勢力との関係を検討したい。


会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟・738番教室

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