第50回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第50回研究例会

日時:2014年12月13日(土曜日)15時~18時10分

   15:00~16:30発表①平野鶴子氏
   16:40~18:10発表②金貴粉氏

会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階738号室

最寄り駅:本郷三丁目駅(地下鉄丸の内線、大江戸線)
■アクセス:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/map01_02_j.html
■建物位置:http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_08_02_j.html

赤門を入り右手の建物です。
*当日は土曜日で建物内に入れない可能性があります。(4時までは開いているはずですが)その時には研究室の電話03-5841-3636に御連絡下さい。



▽発表者①:平野鶴子氏(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

◎題目:「植民地期朝鮮における衣生活をめぐる記憶―聞き取り調査を手がかりとして」(仮)

【発表要旨】


 本発表は、1930~40年代における人々の生活の様子を、とりわけ衣生活をめぐる記憶から具体的に再構築しようとするものである。さらに、当該時期に見られるいくつかの変化が後世にもたらした意味を捉えるために、解放後の事象も考察対象とする。

 発表者の最大の問題関心は、日本の統治支配が朝鮮の社会と人々の生活に与えた影響は、いかなるものであったかということである。当時においては、人々の生活を構成する衣食住という要素のなかでも、衣は、統治者と被統治者双方の意図がもっとも象徴的にあらわれる「場」であったと言える。そしてこの「場」では、経済、政治、社会、文化といった様々な要素がからみ合っていたのであり、衣生活の実態を捉えることは、植民地支配と人々の生活との相関関係の一端を明らかにすることに繋がるだろう。

 アプローチとしては、衣料品の流通構造、衣服統制などの社会政策といった近代的制度の浸透の側面だけではなく、朝鮮に連綿と受け継がれた生活様式や文化を背景とした日常的な実践をあわせて捉えていく必要がある。このため、その実践を自らの経験として、あるいは近親者の経験として知る人々への聞き取り調査を行った。

 本発表では、その調査結果をもとに衣生活の実態を紹介していく。聞き取り内容は、主に、植民地期から解放後までの時期の衣服の原料調達から縫製、手入れにいたる一連のプロセスについてである。その結果、当時どのような衣服を着用していたのか、衣服の材料となる織物を自家製織したのかあるいは市場で調達したのか、衣服の仕立てや染色、そして洗濯を誰がどのように行ったのか、などについて明らかにすることができた。なお、実際の聞き取り対象は70~80代のお年寄りとなったため、植民地期に関する事例は1930~40年代のものに限られる。

 わずかな事例からは、それぞれの地域の特性や、ましてや朝鮮全体としての傾向を見出すことは容易ではない。しかし、彼らの記憶からは、当時の人々の生活の様子が、文字資料のみではうかがい知ることのできないほどのリアリティをもって伝わってくるのである。



▽発表者②:金貴粉氏(国立ハンセン病資料館学芸員)

◎題目:「解放後における在日朝鮮人ハンセン病患者と出入国管理体制」

【発表要旨】


 長年にわたりハンセン病患者・回復者を縛り続けてきた「らい予防法」が1996年に廃止され、1998年の熊本地方裁判所国家賠償請求訴訟が2001年に原告側勝訴となったことで国のハンセン病政策の誤りが明確化された。2014年現在、日本国内のハンセン病療養所入所者数は約1800人で、入所する在日朝鮮人ハンセン病回復者はその中で約100人を数える。これは全入所者数の約5%にあたる。多い療養所では1割を超えることもあった。果たしてなぜこれほど多くの在日朝鮮人が入所しているのだろうか。

 ハンセン病はらい菌による慢性の感染症であるが、その感染や発病には環境が大きく影響する。在日朝鮮人のハンセン病患者が多かった理由について、日本近現代史研究者の山田昭次は、「日本帝国主義の過酷な収奪」が、朝鮮民衆の生活を「低く押し下げられていたから」だと指摘する。(山田:1989年)

 日本の敗戦によって、在日朝鮮人たちは「解放」を迎えたはずであった。しかし、解放後まもなく「外国人登録令」がハンセン病療養所の中にも適用され、登録を義務付けられた。さらに1951年に公布された「出入国管理令」によっても、国外退去処分の対象としてハンセン病患者があげられ、極めて不安定な立場に置かれることとなった。同時に「密入国者」とみなされた者については、取締りの対象としてさらに厳しい監視下におかれた。在日朝鮮人ハンセン病患者は、「朝鮮人」であり、かつ「ハンセン病患者」であることにより、「らい予防法」と出入国管理体制という二重の「取り締まり」対象とされたのである。

 果たして解放後の在日朝鮮人ハンセン病患者は具体的にどのような状況におかれ、その実態はいかなるものだったのだろうか。これまで解放直後の在日朝鮮人患者が置かれた実態に関する言及はほとんどなされてこなかった。本発表では、出入国管理体制を中心に考察し、当事者による証言を踏まえ、その実態を明らかにする。また、朝鮮人ハンセン病患者への取締り強化が日本のハンセン病政策に及ぼした影響についても考察する。

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