第78回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第78回研究例会

 運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第78回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。


日時:2021年12月4日(土曜日)15時~17時

開催方法:Zoomミーティング

発表者:柳煌碩(日本大学非常勤講師)


題目:2000年代以降の韓国社会における受験と学歴獲得に向けた教育戦略と教育観 - 韓国版「ポスト受験社会」についての考察

 本研究は、インタビュー調査に基づいて現代韓国社会における受験と学歴を巡る具体的な教育戦略・教育観について検討する。韓国社会は、しばしば「受験大国」「学歴社会」と形容され、大学入学試験に向けた熾烈な学力競争が連想される。ただ、昨今の韓国における入試制度は2000年代初頭より大きな変化を遂げており、それに伴って受験と学歴獲得に向けた人々の意識と取り組みも、かつての「刻苦勉励」的なものとはやや異なると考えられる。

 朝鮮戦争後の1950年代後半以降、韓国ではベビーブームと共に中等教育段階での入学競争が激化し、中学・高校の入学試験が次々と廃止された。こうした入試改革は、高度経済成長と共に「大学」に向けた社会の熱望を高め、実際、大学進学率は1990年代から急激に上昇した。

 それに合わせて、1990年代半ば、大学入試制度も現行の「大学修学能力試験」が導入され、中等教育段階での選抜措置を撤去した韓国社会の教育期待と受験競争は、一つの学力試験に集中することになった。

 一方、大学入試を巡る競争の激化は入試制度に対する社会の不満と批判の対象となり、2000年代初頭より全国共通筆記試験による選抜の見直しが進められた。その結果、内申点・「学校生活記録簿」・論述試験を中心とした「随時募集」が次第に選抜方式の主流となり、現在(2019年基準)では大学新入生のおおよそ7割が「随時募集」を通じて入学している。

 本発表では、こうした2000年代以降の韓国社会における人々の受験と学歴獲得を巡る教育戦略と教育観を捉える手掛かりとして、12名の母親(京畿道居住)を対象に行ったインタビュー調査の内容を取り上げる。

 調査対象となった12名の母親たちは、韓国で高等教育への進学率がピーク(2008年:83.8%)に達しつつあった2000年代半ばに大学(4年制または専門大学)に入学し、また「随時募集」方式が定着した2010年代に子育てを始めた世代である。

 本発表では、この世代の母親たちが持っている子どもの受験と学歴獲得を巡る教育観と教育戦略を整理し、その背後にある母親たちの教育経験と社会観について考察する。それを踏まえて、最後に韓国版「ポスト受験社会」について論じる。




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