第79回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第79回研究例会

 運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第79回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。


日時:2022年2月5日(土曜日)15時~18時

開催方法:Zoomミーティング

発表者①:竹田響( 京都大学大学院・日本学術振興会 )

題目:在日朝鮮人の国境を跨いだ親族のつながり -離れて暮らす親族とのやり取りと「墓」を巡る葛藤に着目して

 本発表では、在日朝鮮人が今日、大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国に分かれて暮らしている親族との間で構築している親族間のつながりについて、離れて暮らす親族とのやりとりや「墓」や祭祀に関する事例を通して考察することを目的とする。

 朝鮮半島においては「家」は父系長子男子に継承され、墓守についても、基本的には直系親族の墓の管理を、その家の年長の長子男子が中心となって担うことが規範とされてきた。しかし在日朝鮮人の場合は、故郷に暮らす家族と離散しただけでなく、「帰国事業」によって朝鮮民主主義人民共和国にも親族が移住、離散が拡大したために、直系長子男子による先祖代々の墓の継承が難しくなるケースもあった。加えて、国籍や家族構成によって、日本国、大韓民国、朝鮮民主主義人民共和国の3か国において移動の制限が行われていたために、それぞれの場所に離散した家族が墓参に訪れることも難しい状態が続いてきた。

 本発表を通して、移動の制限が加えられる中で、特に親族が亡くなった際にどのような選択を行い、またそれによって、親族間のつながりにいかなる影響を及ぼし得るのかを考察したい。

発表者②:田中美彩都(日本学術振興会特別研究員PD)

題目:植民地化前後における「収養子」の意味の変遷

 韓国の民法は施行時の1960年から1990年まで、養父と姓・本貫が異なる者を養子にむかえた場合、その養子の戸主相続をみとめないことを規定していた。この異姓養子に対する忌避は、朝鮮後期以降盛行した養子による家系継承の方式に端を発する。すなわち、儒教的祖先祭祀を担うべき長男がいない場合に、姓と本貫を同じくする父系血統から適当な男子を選定してその断絶を防ぐもので、立後、継後などと呼ばれた。立後の担い手は士族層だったが、時代を下るにつれ徐々に平民層にも広まっていった。

 ただし社会の儒教化が進行してもなおすべての養子縁組が祭祀継承のみを目的としたわけではない。実際には知人の子供や捨て子など血縁関係がない、あるいは父系ではなく母系血統の者を、女子もふくめ養子に迎え育てることも行われた。

 従来の研究ではこのような養子の形態は主に「収養子」と呼ばれてきた。しかし朝鮮時代の国家記録では、実質的には立後でありながら「収養」と表現された事例も散見する。それでもなお立後以外の養子が「収養子」と呼ばれるのは、統監府および朝鮮総督府による慣習調査やそれに基づく戸籍法および家族法の施行、そして判例の形成のなかで成立した「収養子」の定義が直接的に影響していると考えられる。

 近年の研究では、朝鮮時代の「収養子」の語義について、時期に応じて差異があることが明らかにされている。本報告では、こうした朝鮮時代の「収養子」に関する議論を整理したうえで、近代における「収養子」の定義の変遷とそれに関わる施策との関係を追う。この作業を通じて、報告者がこれまでとりあげてきた「儒教的」な養子とは一線を画す朝鮮の養子のありようの一端を示すとともに、当局の「収養子」の定義の操作によって朝鮮社会がこうむった影響を提示したい。

韓国・朝鮮文化研究会 事務局
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学大学院人文系研究科 韓国朝鮮文化研究室内