第81回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第81回研究例会

 運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第81回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。


日時:2022年6月11日(土曜日)15時~18時

開催方法:Zoomミーティング

発表者①:李承澤(早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員)

題目:韓国における動物愛護思想の意味 -動物スポーツ文化と人権(権利)の矛盾性、そして自由の多様性-

 今まで進化して来た現代社会において、人類普遍の原理と言われる人権の概念も、西ヨーロッパで形成されたと言う点で、普遍とは言えない側面を持つと考えられる。例えば、中国の人権問題をめぐる米中間の論争やロシアのウクライナ侵攻にかかわる言説に見られるように、現在、人権批判が顕在化している。一方、21世紀の社会的観点から考えるこうした反倫理的な人権問題の現状は、国家と文明に限られるものではなく、歴史の古いスポーツ文化からも「権利とは何か」、「自由とは何か」、「なぜ権利と自由は平等に得られないのか」などの普遍的な理念が定立せず、現在まで至っていることが確認される。

 もちろん、これまでの社会においては、人間と人間だけが論点となってきたと思われるが、この社会に動物が入れられ、さらにスポーツ的な行為が行われる場合にはこれら「権利に対する道徳的地位(moral status)」の倫理的な葛藤はもっと拡散されると言っても過言ではないと思われる。それは知性の高い人間が、感性の高い動物に対してそれぞれの立場から支配欲と本能的欲望を通じて一方的な理念と思想を汲んでいくからだろう。

 本発表では、こうした背景を基本的な概念とした上で、韓国社会を中心に、伝統に基づく「民俗的スポーツ(伝統社会)」の本質を持続する中で、動物に関して人間側に定着している「自由・権利」から生まれた「愛護精神(国際社会)」との葛藤の場ともなっている動物スポーツ文化(人間と動物・動物と動物が行うスポーツ的な行為:例えば、ドッグショー、乗馬、闘技闘犬、闘牛などがある)についてこれまでの研究成果(韓国の動物スポーツ「主に闘鶏、闘馬、闘牛、闘犬」文化と動物愛護文化)を踏まえ、「人間側の権利の共有」と「自由の多様性」を包括的な現代の観点から考察していきたい。


発表者②:金磐石(東京大学社会学研究室博士課程)

題目:農村へ移住した若者たちの文化企画活動と村落空間の再解釈 —慶尚南道南海郡文化企画グループCの事例を中心に—

 韓国では2010年代中盤以降、若者たちの農村への移住、いわゆる「帰農帰村」が社会的に注目を集めている。こうした現象の背景には高齢化や人口減少のため地域が衰退する状況の下で、移住した若者たちを通じて地域の人口を維持し、 若者たちを地域活性化の主体として活用しようとする政策的な意図がある。したがって帰農帰村に関するメディア言説や先行研究では、若者たちが地域社会に安定的に定着し、地域再生事業に参加する過程に焦点が当てられてきた。

 しかし農村に移住した若者たちは多様な欲望を持っている。そしてそれぞれの願望やライフスタイルによって村落という空間は違う意味として知覚される。そのため農村に移住した若者たちを理解するためには、彼らが農村でどのようなライフスタイルを追求し、どのような活動を行っているか、そしてその中で村落という空間をどのように解釈するかを見る必要がある。

 こうした問題意識から本研究は慶尚南道南海郡の文化企画グループCの事例を中心に、農村へ移住した若者たちが地域での文化企画の中で農村という空間といかに関係を持ち、場所の意味を構築するかを分析する。特に地域での日常生活の経験や、地域の内と外を出入りする移動の経験の中で獲得した複合的な視点から、停滞しているとみなされてきた村落の空間を、独自の時間性を作り出す流動的な空間として再解釈する過程を分析する。そして地域社会への参入を中心とする「帰農帰村」言説の外側から、若者たちの活動が地域の場所性を再構築する過程を分析する。

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