第82回研究例会
運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第82回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。
記
日時:2022年12月10日(土曜日)15時~17時
開催方法:Zoomミーティング 発表者:李定恩(同志社大学嘱託講師) 題目:韓国からフィリピンへの教育移動はどのように起きているか —メゾ構造としてのフィリピンの韓国系英語学校を中心に 本報告は、国際移動研究の射程から、韓国からフィリピンへの、英語獲得を目的した教育移動を取り上げる。フィリピンは労働力の送り出し国として知られる一方で、近年アジア域内の新しい英語留学先としても注目を集めている。ただし、フィリピンは他のアジア諸国のような、高等教育のグローバル化の一環、あるいは労働力の受け入れに連続するような留学生受け入れ政策は見られない。ではフィリピンはどのように留学生を引きつけているのだろうか。 本報告は、韓国人移住起業家たちがつくった民間の英語学校(以下では、韓国系英語学校)の役割に注目し、国際移動のリスクおよびコストを削減し、移動を水路づけ持続させるメゾ構造(meso-structure)の視点から、韓国系英語学校を論じる。最後は、フィリピン英語留学の現象が、他のアジア諸国とは異なった、「下から」の教育移動の現象であることを指摘する。 1991年フィリピン・マニラの郊外に初めてつくられた韓国系英語学校だが、韓国社会が1990年代半ば以降「世界化」やアジア金融危機を経て、新自由主義へと大きく舵をきると、韓国系英語学校は韓国社会の変容に積極的に対応し、一大ブームを迎えた。韓国系英語学校は、韓国社会のTOEIC試験や自己啓発のブームといった社会の変容を受け、フィリピンの人件費の安さを利用した「マンツーマン授業」や「全寮制」、「スパルタ・システム」を導入し、それまで懸念されていた治安や男子学生たちの夜遊びを防ぎ、詰め込み式で多くの授業を受け、効率よく英語勉強ができる留学として人気を呼んだのである。また、英語学校は、ワーキングホリデーなど欧米諸国で細分化される労働力受け入れ政策と接続することにより、留学生たちを暫定的労働力として第3国へ送り出す側面も見られるようになった。 このように下からの教育移動を導く韓国系英語学校だが、フィリピン政府による管理の影響から自由であるわけではなく、またトランスナショナルな産業ゆえの困難も数多く抱えている。 韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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