第83回研究例会
運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第83回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。
記
日時:2023年2月4日(土曜日)15時~18時
開催方法:Zoomミーティング 発表者①:田中美佳(九州大学大学院人文科学研究院) 題目:出版社新文館における日本出版文化の受容と変容 新文館は、崔南善が1908年に設立した近代朝鮮を代表する出版社である。『少年』『青春』『時文読本』などの当時の朝鮮で多くの読者を得た雑誌、単行本を出版し、近代朝鮮の出版文化史の基礎を築いた。 先行研究では、こうした出版物の内容や意義の考察に焦点が当てられてきた。一方で、新文館の出版物に他国が与えた影響については深く考察されてこなかった。たとえば、『少年』『青春』をはじめとした新文館の出版物には多くの翻訳物が含まれているが、それらの底本は一部しか特定されていない。 また、新文館の出版物の特色のひとつは、当時の朝鮮では目新しかった挿絵や写真といった視覚素材が積極的に活用され、レイアウト等の形式面でもさまざまな工夫が施されていることである。しかし、こうした形式面の画期性については言及されてきたものの、その来歴までは明らかになっていない。 新文館の出版物を広く出版文化という視点から捉えるうえでは、一国史的な観点から脱却し、出版物の内容面に加え挿絵やデザイン、レイアウトといった形式面を含めて考察する必要があるだろう。 報告者は、当時朝鮮に先行して出版業が発達し、崔南善が二度留学していた日本との影響関係に着目しながら、新文館の出版物を内容面と形式面の両面から分析してきた。 本報告では、新文館が日本の出版物を、記事の翻訳だけでなくレイアウト等の形式面でも参考にしていたことを明らかにすると同時に、底本の選択や翻訳の過程で、独自の要素を付け加えていたことも論じる。以上を通して、近代朝鮮における出版文化の形成について考えてみたい。 発表者②:大坪玲子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) 題目:韓国で働くイエメン人 チュニジアに始まった「アラブの春」はイエメン共和国にもおよび、長期独裁政権は倒れ、一時は新政権のもとで民主化の道を歩み出したかに見えた。しかし新政権は反政府勢力をおさえきれず、2015年から内戦が続いている。長引く内戦のため、国民の多くは人道支援物資を必要とし、国を離れる者も後を絶たない。アフリカやヨーロッパのみならず、イエメンから遠く離れた韓国にも彼らは戦火を逃れてきた。2018年に済州島に現れたイエメン人はマスメディアでも取り上げられ、イスラモフォビアを含む様々な議論を韓国社会に引き起こした。現在彼らのほとんどは人道的滞在許可という地位を得て、韓国各地で外国人労働者として働いている。 本発表では彼らがいかにイエメンを逃れ、どこを経由してどのように韓国に辿りついたのか、現在どのような職業についているのか、将来的にどのような希望を持っているのかということを明らかにし、「移民大国化する韓国」に住む外国人の実状を考えたい。
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