第84回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第84回研究例会

 運営委員会での検討の結果、COVID-19の感染拡大に鑑み、第84回研究例会も引き続き、Web会議サービスのZoom上で下記の通り実施しました。


日時:2023年4月8日(土曜日)15時~17時

開催方法:Zoomミーティング

発表者:李貞善(東京大学大学院人文社会系研究科・研究員)

題目:今こそ「骨」を読み返す:朝鮮戦争期に日本でなされた国連軍戦没者の個人識別を中心に

 1950年の朝鮮戦争勃発以降、急変する戦況に伴い朝鮮半島には臨時墓地が散在していた。1951年4月に国連軍司令部が釜山周辺に国連墓地(United Nations Cemetery、現国連記念公園)を建設し、それ以降国連軍戦没者は仮埋葬、発掘、移動を経てこの国連墓地に統合されるか、米軍戦没者の場合は日本を経由して本国に送還された。 

 朝鮮戦争については膨大な研究の蓄積がある一方で、同戦争が遺した世界唯一の国連の公式墓地である国連墓地に関する先行研究は、初期の史料の入手が困難であったため、極めて少ない状況にある。これに加え、アメリカと日本、韓国の研究は主に各国の視座にとどまっており、国連軍戦没者の個人識別と米軍戦没者の本国送還、国連墓地の全体像を把握するにも史料の制約がある。

 本報告では、国連墓地が造成される1951年から停戦後の1956年にかけて日本の九州に存在した米軍墓地登録部隊で、人類学者らが担当した国連軍戦没者の個人識別に焦点を当てる。研究手法としては、アメリカ国立公文書記録管理局の所蔵を含む多岐にわたるアーカイブ史料のほか、日・欧米・韓の文献を照らし合わせて分析を行う。その結果、従来の研究史においてほとんど究明されてこなかった、日本人による国連軍戦没者の個人識別という行為が、どのように朝鮮戦争への人類学的な「支援」になったのかを解明する。そして、日本の九州が、国連軍戦没者の個人識別と米軍戦没者の本国送還、また国連墓地を結びつける重要な結節点となったことを明らかにする。

 朝鮮戦争停戦70周年を機に、今こそ死者のバイオグラフィ—、つまり「骨」を読み返すことで、戦争がもたらした破壊を克服する個人識別に改めて光を当てる。これを以て、今日も世界各地で起きている戦争の死者を生者の記憶にとどめる営みについて理解を深める一助となりたい。

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