第87回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第87回研究例会

 開催方式につきましては,昨今の情勢を踏まえ,対面(京都会場)+Zoomのハイブリッド形式としました。


日時:2024年2月3日(土曜日)15時~18時

開催方法:同志社大学今出川校地+Zoomミーティング

発表者①:金由地(同志社大学社会学研究科博士後期課程)

題目:1980-90年代指紋押捺拒否運動のダイナミズム——社会運動の視点から捉えなおす

 1980年にはじまり、約20年にわたって繰り広げられた在日外国人の指紋押捺拒否運動(反外国人登録法運動)は、①国内での広がり(1万人を超える拒否者、200以上の運動体、1000万近くにのぼる署名)、②トランスナショナルな運動空間の形成(韓国政府、国内外の教会ネットワーク、国際人権団体の圧力など)、③戦後日本で初めて、法に自覚的に違反する「市民的不服従」の運動を発端として法改正がもたらされた(1999年に指紋押捺制度は撤廃)という要素をもってしても特筆すべき点を持っており、しばしば戦後日本における「公民権運動」であったとも評価される。一方で、このような規模の大きさやインパクトとは裏腹に、指紋押捺拒否運動に関する学術的研究はきわめて低調であり、運動を内在的に理解し、その社会的・歴史的位置を明らかにする試みはいまだ手つかずと言っても過言ではない。

 本発表では、まず社会運動分析の主要な要素(運動の担い手・アクター、争点、抗議のレパートリー、運動様式など)を用いて指紋押捺拒否運動のダイナミズムを明らかにすることで、その歴史的意義を検討する。後半部では、さらに踏み込んで指紋押捺拒否運動がなぜ歴史の対象からこぼれ落ちてきたのかについて、日本の社会運動研究と在日朝鮮人研究の双方にまたがって考えてみたい。



発表者②:小平沙紀(東京大学大学院学際情報学府博士課程)

題目:現代韓国の義務兵役と美容実践—ミリタリー雑誌を手掛かりに

 韓国男性の美意識は非常に高く、男性用化粧品国民一人当りの売上高は世界第一位を誇り、美容整形の男性患者も年々増加している。韓国では、「グルーミング族」(그루밍족)と呼ばれる、美意識を高く持ち美容実践に積極的な男性が増加しており、20代男性の約6割に美容施術の経験があるとの調査結果もある。本研究では、儒教規範に基づく家父長制および徴兵制など、歴史的に男性優位とマチズモが特徴とされてきた韓国社会において、それらと一見、矛盾するような韓国男性の活発な美容実践がどのような文脈により生成されてきたのかを考察する。なかでも本報告では、韓国において美容業界の新たなターゲット層として注目されている男性軍人に着目し、ミリタリー雑誌における美容整形および化粧品広告の考察をおこなう。近年、韓国ではとくに若年男性の美容実践は活発化しており、義務兵役中の男性たちの多くも軍隊内で化粧品を使用している。本報告では、韓国のミリタリーカルチャー雑誌『HIM』を分析対象として、雑誌内の広告において使用される言葉やイメージの特徴を抽出しながら、軍人の身体がどのように眼差され美容実践が推し進められているのかを検討したい。



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