第89回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第89回研究例会

 開催方式につきましては,昨今の情勢を踏まえ,Zoom形式としました。


日時:2024年6月8日(土曜日)15時~18時

開催方法:Zoomミーティング

発表者①:方閠濟(関西大学非常勤講師)

題目:梁石日の作品世界に関する一考察 - ホモ・サケルとアジア的身体論を中心に –

 本研究は在日作家の梁石日の文学観の核心である「アジア的身体」という概念が、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの「ホモ・サケル」と接点を考察し、梁石日の作品内でどのように具現化されているかを検討することが目的である。

 梁石日は第二世代在日作家として多くの作品を通じて大衆に大きな人気を博している。在日という出身の特殊性により、第一世代の作家たちが国家や政治、民族的アイデンティティに注目し、これを作品に込めてきたのに対し、第二世代の作家たちはこれを一歩進めて、在日朝鮮人として経験した日本社会での差別や蔑視、韓国と日本のどちらにも属さない、在日のアイデンティティを作品の中で扱ってきた。梁石日は第二世代在日文学に属する人物であるが、彼の文学は単に在日という存在の特殊性を扱うことに留まらず、近代植民地主義への批判とともに、近代国家体制の外に存在する人々への差別と暴力の不当性を暴露することによって、これを批判している点で、世界的に現れる人間普遍の問題を扱う世界文学としての可能性を内包している。梁石日は差別と暴力という人間の普遍的な問題を、作品中の人物の身体の毀損を通じて赤裸々に描き出している。梁石日の作品に見られるやや過剰とも思える残酷な暴力と性的描写は、近代が構築したシステムによって区画され、外面された人間群像に刻まれた差別と暴力の傷痕である。

 本研究では『夜を賭けて』と『血と骨』を通じてホモ・サケルとアジア的身体がどのような様相で表象されているかを考察したい。

発表者②:朴庾卿(長崎外国語大学特任講師)

題目:「人間を映す鏡」としての動物—猫の表象からみる韓国社会

 かつて、韓国人の多くは猫に対して負のイメージを抱いていた。もちろん例外はあるものの猫に対しては、気難しい、気味悪い、仕返しをする動物として語られる場合が多い。このような猫に向けられる眼差しは犬に対するそれとは大きな隔たりがあり、猫に対する様々なイメージが共存している日本に比べれば、偏見に満ちていた。猫に対する負のイメージは長い間続けられ、猫を飼う割合も犬に比べればはるかに低い。

 しかし、猫に対するそのような根強い認識に変化が見られ、今日は飼い猫も増加している。2003年には「猫シンドローム(猫への関心の増加)」、また「도둑고양이(泥棒猫)」の代わりに「길고양이(野良猫)」という言葉も登場するなど、猫は大衆文化の一つとして語られるようになった。猫への関心が高まっている当時の現状について、猫を飼う年齢層は主に20〜30代の女性であり、ブームの原因は日本の漫画やアニメの影響及び独身者の増加、犬より世話が楽である点に加えて経済的な余裕が挙げられている。

 韓国社会における猫に対する認識の変化は、上記のような外的要因によるものなのか。明確にも見えるその要因の中に隠された意味はないのか。本発表では、「人間を映す鏡」としての動物という視点から、日本と韓国において他の動物よりイメージの相違が明確に表れる「猫」に注目し、韓国における猫の表象を考察したこれまでの研究を振り返り、猫に対する認識の変化の背景にあるものは何か、その社会的、象徴的意味について再検討する。



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