第90回研究例会
運営委員会での検討の結果、対面とWeb会議サービスのZoom上でのハイブリッドにて開催しました。
記
日時:2024年12月7日(土曜日)15時~18時
開催方法:東京大学(本郷キャンパス) 赤門総合研究棟7階738号室+Zoomミーティング
発表者①:曺瑞姸(東京大学特任准教授) 題目:韓国のベトナム戦争映画と「以後世代」のポストメモリー 本報告では、韓国のベトナム戦争映画に関する研究の展開を紹介し、その中でドキュメンタリー映画「記憶の戦争」(イ・ギルボラ、2020)と「以後世代」のポストメモリーを分析した研究成果を取り上げる。「記憶の戦争」は、2018年にソウルで開かれた市民法廷を中心に、ベトナム戦争時の韓国軍による民間人虐殺被害者の証言を再現した作品である。本研究は、「記憶の戦争」がポストメモリーの方法を通じて感情の文化政治を遂行した加害者-以後世代の活動であることに着目し、これを三つの層で分析する。第一に、韓国ベトナム戦争言説の展開の中で「記憶の戦争」が形成する「以後世代」の位置を検討する。次に、市民法廷シーンをはじめとする様々な場面で映画が駆使する感覚的演出の様相を、マリアンヌ・ハーシュが提唱したポストメモリーの観点から分析する。続いて、「記憶の戦争」が加害者-以後世代のポストメモリー作品として「関与」を構成する過程で露呈した限界を指摘し、これを「苦痛の政治」と「国家的恥辱」に対するサラ・アーメッドの情動の政治研究を経由して分析する。本研究は以上の分析を通じて、加害者-以後世代のテキストとして映画「記憶の戦争」が遂行する記憶活動の新たな様相とその意義を考察し、韓国のベトナム戦争問題を現在化する最近の政治的実践の中でこれを文脈化しようとする。
発表者②:武藤優(北海道大学学術研究員) 題目:朝鮮人声楽家金安羅とその活動 一九三〇-一九四〇年代を中心に 戦時体制下の日本において「半島の歌姫」と称された朝鮮人声楽家がいた。朝鮮人女性声楽家の金安羅(一九一四−一九七四)である。金安羅は、一九一四年朝鮮元山に生まれ、東京の中央音楽学校声楽科に入学する。卒業後は、日本と朝鮮を往来しつつ、主に東京を拠点に音楽活動をおこなった。 金安羅は、一九三〇−四〇年代の東京において娯楽の生産拠点であった新宿・有楽町・浅草の劇場を中心に活躍し、「アリラン」をはじめとする朝鮮民謡を日本人さらには朝鮮人観客の前で披露した。とくに、日本劇場(有楽町)では「日劇ステージ・ショウ」という映画とステージ・ショウの二本立て興行において特別出演者として朝鮮の歌を歌唱するなど、戦時日本のエンターテインメント業界における「朝鮮もの」興行の一翼を担った。日劇ステージ・ショウは、一九三八年、日中戦争が開始した翌年を境に外地の朝鮮、台湾をはじめとし、アジア各国の踊りをショウの題材として起用しはじめる。金安羅は、まさに「非常時」を迎えた日本興行界を支えた表現者の一人と言える。本発表では、一九三〇-四〇年代における金安羅の活動に焦点をあて、金の活動の軌跡と当時の東京における朝鮮関連興行の実態について明らかにする。
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