第31回研究例会
日時:2009年4月4日(土曜日) 午後3時~7時
会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階 738号室
最寄り駅:本郷三丁目駅(地下鉄丸の内線、大江戸線)
アクセス 建物位置
正門(赤門でなく)から入り左手2番目の建物です。
*当日は土曜日で建物内に入れない可能性があります。
(4時までは開いているはずですが)その時には研究室の電話(内線23636)まで御連絡をお願いします。
赤門脇の守衛所に公衆電話があります。
【発表1】
○発表者:鄭 恵珍(お茶の水女子大学 大学院)
▽発表題目:韓国・朝鮮における女妓剣舞に関する考察 ― 晋州剣舞を事例として-
1.研究目的及び研究方法
韓国・朝鮮における剣舞は、新羅(BC57-AD935)時代に童子仮面舞形式で演じられたのをその由来とし、現在は晋州・密陽・平嬢など約7か所の地域にそれぞれ郷制化された剣舞が宴行されている。
上記のうち筆者の研究は、朝鮮王朝後期、宮中や各地方の官庁所属の教坊・そして民間で幅広く宴行された女妓剣舞を考察することを目的としており、本発表では、晋州剣舞を事例とし、宮中と地方の教坊における女妓剣舞の全般的な伝承様相や女妓剣舞郷制化の背景に関して考察を行うことにする。
そのため、宮中剣舞に関しては宮中礼宴(儀礼・宴享)記録物である『儀軌』のうち、宮中呈才が宴行された称慶宴関連『儀軌』を調査し、主に参考にした。その一方、地方教坊剣舞に関しては、朝鮮後期、地方に散在していた教坊の実状を記録した唯一の文献である『教坊歌謡』を主に参考とし、19世紀中・後半において妓女らが宴行した剣舞の考察を行った。また、教坊廃止以後、近代までの女妓剣舞に関しては、朝鮮期、晋州教坊妓であり選上妓であったチェスンイ(1884-1969)の孫弟子で、現在、韓国重要無形文化財第12号として指定されている晋州剣舞の芸能保有者である成季玉(1927 -)へのインタビューにより考察する。
2.結果及び考察
朝鮮王朝期は、中央と地方に慣習都監(後の掌楽院)や教坊を設置し、唐と宋の音律に依拠する唐楽流と民族固有の郷楽流の楽・歌・舞を習楽させ、礼宴で活躍する女妓らを養成した。
中央には京妓を、地方には郷妓を置き、君・臣・民の和合や王室親姻戚間の和睦を始めとし、辺境の軍士慰労や交隣政策を図る行事で舞わせた。京妓が慣習都監で楽・歌・舞を身につけ宮中の内宴や宮中賀礼及び親蚕礼(養蚕を奨励するため王妃が自ら養蚕の本をみせ絹生産に力をつくした宮廷儀礼)などで宮中呈才を担当した一方で、郷妓は各地方の官庁に附属する教坊で楽・歌・舞を身につけ、外国に発つ朝鮮の使臣や朝鮮を尋ねて来た外国使臣のための使客宴、地方役人の赴任歓迎宴、各種官辺の公事宴亨などで教坊呈才を担当した。
彼女らのうち、才芸に優れた者は‘選上妓’として中央宮中に選上され、宮中宴亨に参加できる機会を与えられたため、こうした地方教坊所属の選上妓らによって中央の宮中呈才が地方の教坊にも受け継がれたのである。一方、地方の教坊呈才が選上妓によって宮中に流入した場合もあり、剣舞はその一例と言える。
このように剣舞は地方の教坊で郷妓らによって宴行されたものが18世紀末に宮中へ流入し、次第に宮中呈才化された‘剣器舞’が、再び選上妓によって地方の教坊へ受け継がれたとみなされている。
その後、晋州教坊が廃止され、教坊の女妓らが解散することになってからは、1913年に組織された‘晋州芸妓組合’を経て‘晋州券番’で剣舞が伝授された。しかし現在、宮中剣器舞はその伝承が途絶えている。晋州剣舞は、現行の地域剣舞のうち歴史的伝承過程が最も明確であり、唯一宮中剣器舞と宴行手順がほぼ一致するため、今後、宮中剣器舞を探る重要な手掛りになると考えられる。
【発表2】
○発表者:Haeng-ja Chung(チョン・ヘンジャ) (ハミルトンカレッジ人類学部助教授)*現在、日本学術振興会外国人特別研究員として東京大学に滞在中
▽発表題目:パッシング: 来日および在日韓国朝鮮人ホステス
2000ー2001年および2008年から現在にいたるまで、来日および在日韓国朝鮮人ホステスに関する調査を行ってきた。2000ー2001年には、名古屋と大阪において参与観察を行った。在日韓国人ホステスや日韓ダブルのママが日本人としてパッシングしながら働くクラブ富士、およびニューカマーの韓国人ホステスやマネージャーが働く「韓国クラブ」ローズにおいて、ホステスとして働きながらデータを収集した。労働しつつ参与観察を行い収集されたデータは、一般的な参与観察という呼び方ではすくい難い特性があることを鑑み、この手法を「労働参与観察」と名付ける。2008年7月以降は、東京、福岡、沖縄にもフィールドを広げ、フォローアップ調査を行っている。現在執筆中の日本語の『性労働と感情労働:来日および在日韓国朝鮮人ホステス 』(仮題)、および英語『Sex Work with/out Sex, Citizens with/out Citizenship: Korean Nightclub Hostesses in Japan』(仮題)という民族誌の一部を、「パッシング」という事象に焦点を当て発表したいと思う。
パッシングとは
パッシングは、ある人物に付与されているカテゴリーと実態のずれから生じる。あるグループに入れられた人が、カテゴリーと実態のずれを意識的に利用して、自分があるグループに入れられていることを否定、あるいは別のカテゴリーへの属性を強調することをパッシングと呼ぶことことが多い。例えば、アメリカでは、出自から黒人グループに入れられることが多い人物が、 白い肌であること、そして自らの黒人としての出自を隠すことにより、白人としてパッシングするケースがある(Racial Passing)。しかし、本発表では当事者がパッシングするつもりがなくても、カテゴリーする側が、勝手に「勘違い」するケースも含みたい。例えば、電車の中で在日韓国人三世が日本語を話しているのを聞いて、見ず知らずの日本人が、彼を日本人と思い込むケースなどだ(Ethnic Passing)。 また、ホステスに対して恋人気分を味わわせて欲しい期待したり、ママに母親的な包容力を求める客を満足させる職業的演技(Occupational Passingと名付ける)との関連も考察し、エスニックパッシングと、職業的パッシングが折り重なった場合、どのような状況になるのかを、フィールドワークの事例から分析したい。
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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