第30回研究例会
日時:2009年2月7日(土曜日) 午後3時~7時
【発表1】
▽発表者:橋本繁(日本学術振興会特別研究員)
○発表題目:韓国木簡研究の成果と課題
朝鮮半島で出土した木簡の点数は、これまでに21遺跡から500点近くに達している。ほとんどが6世紀半ばから8世紀にかけての百済・新羅のものであるが、楽浪郡のものや高麗時代のものも発見されている。木簡に書かれた内容は非常に断片的ではあるが、当時の生々しい姿を伝えており、政治、社会だけでなく信仰、思想、言語などの貴重な資料となる。出土点数の増加と写真資料の公開により、この10年で韓国木簡の研究は飛躍的に進んでいる。研究状況を踏まえて、重要な木簡を紹介していきたい。
古代の紙の文書はわずかしか残っていないため、日常的な行政で使用された木簡は、当時の文書行政を明らかにするための重要な資料となる。まず、授受関係の明確な狭義の文書は、慶州・月城垓子、河南・二聖山城などから出土している。帳簿として使用されたものとして、食料の支給を記録した扶余・陵山里出土「支薬児食米記」や穀物の貸与について記した扶余・双北里「佐官貸食記」を検討する。咸安・城山山城木簡は、麦などの貢進物につけて使用された荷札であり、新羅の税体系や地方支配に迫りうる。
信仰・思想に関わるものとして、扶余・陵山里から出土した陽物形木簡は、王京に侵入しようとする邪悪なものを防ぐための祭祀に使用されたと考えられている。典籍を書写したものとしては、『論語』木簡が2点出土している。どちらも復元すると1メートルを超える棒状の木簡に書かれているという特徴をもつ。
慶州・雁鴨池で出土した付札木簡からは、発酵食品の生産と保管が復元できる。そのほか薬物名を列挙した木簡や、門の警備に関わる木簡など、統一新羅時代の王宮生活を伝える資料である。
このように木簡の内容は非常に多様であるが、朝鮮古代の関係史料が少ないため、解釈が困難な場合が少なくない。これまでの研究では、中国大陸や日本列島の木簡と比較することによって、成果をおさめてきた。そして、こうした比較を通じて、新羅や百済と日本列島で共通する文字文化をもっていることが分かりつつある。
【発表2】
▽発表者:新里 喜宣(東京大学大学院)
○発表表題:沖縄社会とシャーマニズムの現代的諸相-韓国との比較研究に向けて
本報告では、本土復帰(1972年)以後の沖縄社会が如何なる変容を呈しているか、そして、それは「ユタ」を中心とした沖縄のシャーマニズムに如何なる影響を与えているか考えてみたいと思う。
韓国と同様に、沖縄には「門中」と呼ばれる父系親族集団がある。
門中の社会的機能、構造については、これまで多くの貴重な研究が積み重ねられてきた。また、ユタの宗教的世界観や成巫過程についても、いわゆるシャーマニズム研究として多様な角度から考察が図られてきた。門中とユタは社会的機能の側面において非常に重要な関係性を有し、先行研究においては両者の間における相互補完性についても活発に議論されてきた。
以上の研究の意義は非常に大きいが、問題点としては、本土復帰以後の調査に欠けている点が指摘できる。復帰以後の沖縄社会の変貌ぶりは凄まじいという認識は広く共有されているように思えるが、そこに論点を定めた研究は極めて少ない。沖縄社会は変わってきているが、ユタに対する需要は衰えていないように見える。そこで本報告では、沖縄の伝統的親族組織がその社会的インパクトを弱めつつあるなかで、ユタは如何なる対応をしているか報告者の調査で得られた資料をもとに紹介し、その意味を考えてみたいと思う。
なお、報告者としては、本発表において立脚する視座は、韓国社会と宗教の現代的諸相を考える上でもある程度通用するのではないかと考えている。そのため、韓国との比較の観点を多分に含んだ議論を目指したいと思う。
会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階 738号室
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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