第29回研究例会
日時:2008年12月6日(土曜日) 午後3時~7時
【発表1】
▽発表者:宮脇裕子(放送大学大学院)
○発表題目:在日コリアンの多様的・流動的・両義的な日常生活についての考察-ライフコースの事例を通して-
1910年の日韓併合以来、日本には多くの朝鮮人、韓国人が移住し、定住してきた。そして、意識的にも無意識的にも日本人は在日コリアンと関わり持って暮らしてきた。しかし、彼らに対する社会的認識は依然として不十分なままである。パターン化された偏ったイメージや一方的にラベングされた固定観念が現存している。その理由として、日本社会の複雑な状況が、とりわけ日本と朝鮮半島の政治的問題が在日コリアンの実態を見えにくくしてきたためだと考えられる。それは法的地位や就労問題などの点で、在日コリアンの権利が十分に保障されていないため、必然的に彼らは多様的で流動的で両義的な人生の選択を余儀なくされたことが関与している。つまり個々のおかれた状況に応じて彼らは時として日本人として振るまい、韓国人や朝鮮人に戻り、またどちらでもないというような目まぐるしい変化の中で生きてきたからである。
これらの問題点を前提としながら、本研究では在日コリアンの生活実態の解明の為にオールドカマ―である一世から三世の世代を対象として考察をおこなっている。また日常生活における彼らの多様的で流動的で両義的な認識と経験に焦点をおいて具体的なライフコースの事例を取り上げながら考察をおこなっている。
さらに従来、文化人類学のフィールドワークは参与型観察(participant observation)が主流とされ、その方法論のもとに調査研究が進められてきた。しかし本研究においてはインフォーマントに対してより接近し、多角的なアプローチを試みるといった展望のもとに、インフォーマントにパートナーとして研究に共働参画を求めるアプローチが求められることを踏まえ、そうした相互参与型(participatory research)研究といった手法により調査をおこなうことを心がけた。その利点はインフォーマントが単なる話者としてばかりでなく、間接的に研究に関わることで相互間での討論や内容についての確認作業を通して、彼らの実態を研究の中により正確に反映させることが可能であるからである。これらを踏まえながら、在日の現在の日常生活を規定しているさまざまな生活要因についての分析をおこなっている。そしてそれだけにとどめず、過去の歴史的背景からもアプローチをおこない、それらの関連要因が在日コリアンの日常生活の実態にどのような影響を与えたか、与えているかについての包括的な分析と記述をもとに日常生活の実態をより正確な情報として伝えることに留意している。さらに一連の作業を通して、現在在日コリアン三世以降の世代や民族団体から生み出されてきた日韓の関係における新しい潮流についてのさまざまな活動を紹介しながら、その意義について考えると同時に、日本人と在日コリアンの共生社会へ向けての新しい関係を模索する一助としていきたいと考える。
【発表2】
▽発表者:金 香男(フェリス女学院大学国際交流学部)
○発表表題:韓国の高齢者問題と政策的対応について
今日のアジアでは、とりわけ経済成長を遂げてきた国や地域で少子高齢化が急速に進行している。韓国においても死亡率の低下と平均寿命の伸長、そして出生率の低下を要因として、人口構成における高齢者人口が急激に増加している。韓国は2000年に高齢化率が7.2%となって高齢化社会に突入したが、2017年には14%を超えて高齢社会に、2026年には20%を超えて超高齢社会になると予測されており、日本を上回る速度で人口高齢化が進行している。
高齢化のスピードが速いということは、高齢化に伴って生じるさまざまな問題を迅速、かつ適切に対処し解決しなければならないことを意味する。社会全体でみれば、社会保障制度や福祉サービスをいかに整備するかということであり、個別家族についてみれば、老後の経済的扶養や身体的介護をいかにして遂行するかということである。一方、従来家族によって担われてきた高齢者の扶養と介護は、急激に低下しているのが現状である。韓国では伝統的に子ども、とくに長男が老親と同居し扶養するのが一般的であった。しかし、1960年代以降の急激な産業化と都市化、核家族化による家族構造の変化と老親扶養意識の低下、女性の社会進出の増加、要介護高齢者の急増などの理由から、家族による高齢者の扶養と介護は困難な状況になってきている。
本報告では、韓国における高齢者の現状とそれをめぐる諸問題を検討し、韓国の高齢者福祉政策がこれらの問題にどのように対応しているのか、その問題点と今後の課題について考察する。
会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階 738号室
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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