第28回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第28回研究例会

日時:2008年6月7日(土曜日) 午後3時~7時

【発表1】

▽発表者:山根実紀(京都大学大学院教育学研究科)
○発表題目:夜間中学に学ぶ在日朝鮮人女性―作文とライフヒストリーにみるポスト植民地問題―

 1970年代以降、義務教育未修了者のための公立夜間中学に、在日朝鮮人1世・2世の女性たちの入学が急増した。彼女たちは、植民地時代に学齢期を過ごし、民族・階級・ジェンダーの重層的差別構造下において、あらゆる初等機会から疎外されたものである。こうした不就学・非識字体験は、解放後の生活をも束縛していく。
 それ故、彼女たちにとって、夜間中学は、かつて断念せざるをえなかった「学校」の憧憬のまととなった。「国語」(=日本語の読み書き)や数学だけでなく、社会や理科、英語、音楽などの授業、学校行事、クラスメイトとの交流など初めての「学校」体験をすることになる。
 確かに、学校と識字は、抑圧された人々を「意識化」し「解放の道具」、つまり戦略として獲得することにより、社会改革へと切り拓くものとなるかもしれない。しかし、日本の近代学校教育によって排除(包摂からも排除)された彼女たちが、日本の近代学校教育及び識字とそれを内面化した日本人教師たちによって「解放」されていくということは、どういうことだろうか。その学校と識字の皮肉な両義性と、どのような識字をどのような関係性のなかで獲得するのかが問われなくてはならない。在日朝鮮人女性にとっての、識字とは、夜間中学とは、一体何だろうか。夜間中学の実践成果である彼女たちの綴った作文と夜間中学生のライフヒストリーを素材に考察していきたい。

【発表2】

▽発表者:安 成浩(神戸大学学術推進研究員)
○発表表題:中国朝鮮族村落の「生成」と集団化政策

 中国朝鮮族は朝鮮半島から中国へ移住し、定着した移住民族である。「朝鮮族共同体」の基盤は農村におかれており、朝鮮族村落は、朝鮮族の精神的、経済的、文化的、教育的な基盤であるとされている。
 では、なぜ朝鮮族社会の基盤が農村部の村落に置かれることになったのか。この点についての検討は、これまでそれほど行われていない。朝鮮半島から中国への移民は主として農業移民であったが、それが農村を基盤とした民族共同体を形成するのは、自然なことでも自明なことでもない。
 実際、朝鮮族村落の「生成」のプロセスを探ってみると、「朝鮮族共同体」の基盤形成は、必ずしも自然発生的に行われたものではなかった。
 朝鮮族村落の「生成」は、戦後、中国共産党が農村で推し進めた集団化政策と密接な関係を持っている。朝鮮族は、自らがおかれた東北アジアの国際情勢の変化に翻弄されながら、農村地域に定着するほかなかった。社会情勢の変化と集団化の推進という状況の中で、村落を中心とする朝鮮族社会の基盤が形成されたのである。
 本発表は以上のような視点から、朝鮮族村落の「生成」と基盤形成を、集団化とのかかわりを中心に行う。具体的には、朝鮮族村落の「生成」のプロセスを簡単に触れながら、戦後の社会情勢、朝鮮戦争、中国戸籍制度改革、大躍進、文化大革命といった社会情勢の変化を視野に入れながら、このような社会変化の中で進められた集団化運動と、集団化が朝鮮族村落の「生成」にもたらした影響を分析する。

会場:同志社大学・新町キャンパス 尋真館 Z44a教室(4階)

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