第27回研究例会
日時:2008年4月12日(土曜日) 午後3時~7時
【発表1】
▽発表者:李 相旭(東京大学大学院)
○発表題目:植民地朝鮮における私設墓地問題の検証
朝鮮半島の葬墓慣行における「近代」は、1912年に発布された「墓地、火葬場、埋葬及火葬取締規則」(以下墓地規則と略)をもって嚆矢とするが、この墓地規則は三一運動勃発後の1919年9月に改訂される。一言で言えばこの改訂によって共同墓地一辺倒の政策が改められ以降私設墓地との並立政策となる。総督府はこの改訂を「大改正」と称していたが、その理由はかれらが私設墓地を「人民の翹望シテ已マナイ私設墓地」と捉え、この改訂自体を「朝鮮に於ける慣習ナルモノヲ大ニ尊重シタル結果テアルト云フコトハ誰レシモ否定スルコトノ出来ナイ事実タラウ」と理解していた点に由来する。
研究史上においても1919年の改訂墓地規則という契機を伝統の復活又は承認と認識することが定説となっているようだが、言うまでもなく「復活」や「承認」という認識は1919年以前に既に存在した事象が復活又は承認された(という事実に基づく)とき相対的に適切な認識だと言い得る。だがこの点を実際に検証した研究は存在しないと思われる。
本報告は、上記の如き総督府認識――「人民」の欲望及び朝鮮在来の慣習の尊重という契機を強調する認識――を、統計資料を通じて(主にマクロ的に)実際に検証することを積極的な目標とする。検証の経路は概ね、第一に墓地関係資料、第二に林野関係資料に依拠する。両経路を通じて主に統計資料を用いるが、朝鮮近代史研究との関連で言えば、前者においては村山智順『朝鮮の風水』の葬墓慣行記述部分、後者においては権寧旭(1965)「朝鮮における日本帝国主義の植民地的山林政策」で提示された植民地林政パラダイム、以上両者の再検討という契機が行論上内包されると思われる。両経路の概念的総括は土地及び労働力の商品化となる。近年の研究成果としては高村竜平(2007)「葬法の文明論」(池田編『大東亜共栄圏の文化建設』所収)への対論(の提起)として機能すると思われる。直接論及する予定はないが、ウェーバー的「資本主義の精神」がそもそも前提とする生と死の対立構造の普遍性の検証を消極的目標とする。ピエール・ブルデュー『資本主義のハビトゥス』における時間意識における構造変化という論点の植民地朝鮮史における消極的喚起と言い換えることもできる。
なお報告は主に報告者の既発表論文及び投稿中の論文に基づいてなされる。
【発表2】
▽発表者:吉田光男(東京大学)
○発表表題:近世韓国の養子と系譜意識―延安李氏館洞派と慶尚道丹城の人々
族譜と戸籍により、養子を手がかりとして、近世韓国における系譜意識を検討する。在京士族であり、名門(閥閲)の代表家門と見なされている延安李氏館洞派と、慶尚道丹城という地域の住民全体とを分析対照し、養子のあり方や系譜構築の様相に比較検討を加える。士族と非士族、在京士族と在郷士族を対照的にとらえることで、養子と系譜がもっている「近世的意味」について考えたい。今のところ、族譜と戸籍による数量的分析を基礎として、次のようなことを述べてみたと思っている。
1. 養子が「派」を超えて交換されている。
2. 養子率が時代的な変動をしている。
3. 養子率が社会階層の高さと比例関係にある。
4. 名門士族であっても、男子継承者がおらず、「絶戸」のかたちで系譜が断絶する。
5. 近世社会において養子増加と並行して、系譜意識が成長していった。
系譜意識が近世全時期を通じて、士族から非士族に拡大し、それが近代における血縁意識を形成する基礎となったことについて論を進めていくであろう。
会場:東京大学(本郷キャンパス)法文2号館2階 2番大教室
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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