第26回研究例会
日時:2008年2月9日(土曜日) 午後3時~7時
【発表1】
▽発表者:具知瑛氏(国立民族学博物館外来研究員)
○発表題目:「移動するコリアン-中国青島における韓国人と中国朝鮮族」
本報告は、東アジア経済のグローバル化を背景に、移動を通して活路を模索するコリアン――韓国人と中国朝鮮族(以下朝鮮族)――の様相を、中国青島における韓国人と朝鮮族のサービス自営業者に着目して考察することに目的がある。ここで用いたデータは、主に2004年から2006年にわたって行った人類学的フィールドワークに基づいたものである。
今日、約660万人のコリアンが朝鮮半島以外の国に居住しており、それは韓国人口の12~15%におよぶ。一般に、コリアンの海外への移住は、19世紀に始まったと言われており、移住地域は中国、日本、アメリカ、ロシアといった歴史的関連が深い国であった。しかし、1990年代後半以降の韓国国内の状況を見ると「脱韓国シンドローム」といわれるほど、海外移住者が急増しており、移住先をはじめ、移住主体、移住動機も多様化しつつある。
中国青島は、韓国企業の投資が最も活発に行われている都市であり、2006年現在韓国人の移住者が10万人、観光ビザで往来する流動人口が29万人に上回る。また、韓中間を媒介する仕事のチャンスを求めて約15万人の朝鮮族が青島に移住している。
これまで、中国における韓国人は企業派遣者すなわち一時滞在者として、また朝鮮族は彼らと中国社会を媒介する存在(媒介者)として捉えられてきた。しかし、近年の青島では必ずしも企業派遣者とは限らない韓国人(自営業、失業者、教育移民など)が滞留し始めており、一方の朝鮮族のなかには起業によって自営業化する者も出現し、媒介者にとどまらない様相を帯び始めている。すなわち、青島では、両コリアンによる移住社会が形成されつつあるのである。
以上を背景に、本報告では、青島における韓国人と朝鮮族の社会における【1】新しい移住システムの形成【2】移住社会における階層分化、【3】コリアンタウンにおけるサービス自営業の様相、【4】「国家」と「民族」をめぐる問題について考察する。
【発表2】
▽発表者:永島広紀氏(佐賀大学教育学部)
○発表表題:「『緑旗』から『叡智』へ -戦時下の朝鮮における「新体制」と敗戦後の日本社会-」
1930年代から1945年にかけての朝鮮、とりわけ京城の「内地人」コミュニティーにおいて「緑旗連盟」なる特異な社会改良運動(体)が存在していた。
田中智学・里見岸雄らの日蓮主義運動(国柱会・国体科学)をその祖型としつつ、かつ京城帝国大学予科(理科)在籍の生徒を中心に結成される同連盟は、同大予科の教授(化学)であった津田栄の指導の下で、まずは自己修養・人格陶冶を主たる目的とするささやかな法華経サークル運動から出発した。しかし、卒業生が順次に実社会に巣立っていくにつれ、次第に「国語国字」「女子教育」「農民・農村」「乳幼児健康相談」などの諸問題に独自の関与をなしていくに至った。
そしてまた、朝鮮版大政翼賛会たる国民総力朝鮮連盟にも人材を供給するなど、まさに「内鮮一体」政策の寵児的存在となっていったが、本報告ではこうした緑旗連盟の活動の全体像を把握することによって戦時期の朝鮮における一種の「新体制」運動の推移状況を実証的にととらえ直すことを目的とする。
また緑旗連盟メンバーの「引き揚げ」、ないしは「戦後」についても視線を延ばし、あわせてその動向についても整理と考察を行いたい。
会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟7階 738号室
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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