第16回研究例会 of 韓国・朝鮮文化研究会

 第16回研究例会

日時:2005年4月9日(土曜日) 午後3時~7時

【発表1】

発表者:井出弘毅(韓国・朝鮮文化研究会会員)

タイトル:ダブルの日本籍コリアンのアイデンティティの動態:日本への一方的な同化を阻むものという視点から

発表概要:
 現在日本に居住する外国人の数は増え続けており、それを外国人登録者数として確認すると、1,915,030人(2003年12月末)である。また中でも最大のエスニック・マイノリティである在日コリアン(613,791人、全体の32.1%、2003年12月末)が存在するが、年々減少し続けており、全体に占める割合も急速に減ってきている。これは、日本への帰化許可者数の増加や、いわゆる「日本人」との国際結婚の増加がその原因であると言われている。その結果として生まれているダブルの子ども達の増加も認められるが、この中のかなりの人々が日本国籍を選択していることも事実である。
 果たしてこの現象は、在日コリアンの日本への一方的な同化であるのだろうか。この問いについて考察するため報告者は、主としてダブルの日本籍コリアンからの聴き取り調査によって、その実態把握を試みている。
 最近在日コリアンの実態に関する研究が盛んになってきたが、日本籍コリアンについては、帰化許可者を対象としたいくつかの研究が見られる程度である。今回報告する日本籍コリアンの中でもダブルについての研究はほとんど見られない状況である。彼/彼女らはどのような存在であるのか、そして複数の出自は彼/彼女らにどのような影響を与えているのであろうか、また彼/彼女ら自身は自らのアイデンティティについてどのように捉えているのであろうか。こうした点について、先行研究を概観し、聴き取り調査のデータから、民族名などのエスニックなシンボルの選択と位置付け、家族や家庭から受ける影響、民族教育、所属団体から受ける影響、日本人との関係などという点に注目して検討したい。

【発表2】

発表者:金美連(日本大学非常勤講師)

タイトル:キリスト教の受容における祖先祭祀の変容:プロテスタントの事例による韓国・安佐島とソウル、日本・三島の比較考察

発表概要:
 唯一神信仰を掲げるキリスト教の観念においては、祖先祭祀は否定されなければならない偶像崇拝に過ぎない。そのため、韓国に受容されたキリスト教は伝来初期から祖先祭祀をめぐって多くの葛藤がもたらされた。18世紀末にカトリックが入ると、先祖の位牌を祀ることがキリスト教の偶像崇拝になるということで、信者が位牌を燃やして当局によって処刑されるなどの事件も起こり、長い間儒教との葛藤が続いたが、次第に祖先祭祀を宗教儀礼としてみなさず、伝統文化として受け入れるようになった。プロテスタントでは、死者の忌日などに追慕行事として追悼式を行っているものの、儒教祭祀を認めていないため、常に儒教的な祖先祭祀と衝突する潜在性がある。日本においてもカトリック教会が伝統的な祖先祭祀を容認し、新たな意味付けを試みつつ伝道活動を行ったのに対して、プロテスタント教会は原則としてこれを否認している。
 しかし先祖の霊が、生きている者の暮らしに深く関わっているという観念は、儒教や仏教の教義を歪めて、韓国では儒教的な祖先祭祀の慣習を、日本では仏教的な祖先供養の習慣を作り上げた。キリスト教の場合は祖先祭祀を偶像崇拝としてみなしているため、祖先祭祀との習合にまでは至らなかったが、それでもキリスト教徒の祖先祭祀への思いは深いところに留まっている。韓国では儒教的な祖先祭祀が、日本では仏壇や祖先供養がキリスト教徒の生活から容易に姿を消さないでいる。このようなキリスト教徒の祖先祭祀への現実の対応を見ると、韓国と日本における祖先祭祀がいかに根強い風習であるかが分かる。
 本発表では、朝鮮半島の南西の海上にある安佐島と韓国の首都ソウル、そして日本の三島市における祖先祭祀が、キリスト教の受容によってどのように変容していったかについて、現地調査での知見をもとに比較考察したい。なお、プロテスタントの方がカトリックより祖先祭祀における葛藤が一層大きく、文化変容の様態を浮き彫りにするにはよりふさわしいと思われるため、本発表はプロテスタントの事例に限って取り上げていることをお断りしておきたい。


会場:東京大学(本郷キャンパス)赤門総合研究棟・738番教室

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