第8回研究例会
日時:2003年4月5日(土曜日) 午後3時~7時
【発表1】
発表者:中川雅彦(アジア経済研究所)
発表題目:朝鮮民主主義人民共和国における軍隊統制
発表概要:
本報告はすでに『アジア経済』第42巻第11号(2001年11月号)に発表したものに、新た
に判明した事実等を以って補強したものである。
本報告の目的は、金日成、金正日と朝鮮人民軍の関係を解明することにある。金日成は自らが直接指導して幹部を養成し、部隊を編成し、軍需産業を起こして人民軍を建設し、その軍内に政治指導体系を作り上げた。朝鮮戦争中に、金日成は軍内の政治指導体系を強化し、中隊から連隊までの党委員会を構築した。戦後の党内粛清の後、党委員会は省から中隊まで構築された。人民軍は社会主義工業化と党の軍事優先路線の恩恵を受け、金日成に対する忠誠を強めた。さらに、人民軍内の「軍閥官僚主義者」が粛清されると、軍内に指揮官を監視する体系が設けられ、政治指導体系と共存するようになった。金日成の後継者である金正日は、この2つの体系を掌握し、これらに宣伝煽動事業の責任を負わせることによって、2つの体系を一体化させた政治統制体系を構築した。この政治統制体系こそ、正規の軍歴のない金正日が人民軍最高司令官就任よりも前に軍内の指導権と権威を確立してきた最大の槓杆であり、当面の間、その機能が弱まることはないと見られる。
【発表2】
発表者:高正子(総合研究大学院大学文化科学科、地域文化学専攻)
発表題目:仮面劇の伝承と保存会 - 固城五広大保存会の変遷
発表概要:
植民地経験国である韓国は、「二度と植民地にならない」国家建設を目指した。とくに、1961年の軍事クーデタによって政権を掌握した朴正煕は、近代化及び産業化に不可欠なものとして国民国家を形成する「韓国民」の生成を図った。この過程でセマウル運動と伝統文化の再建・保存といった文化政策は、大きな役割を果たした。その一方で1962年に制定された文化財保護法によって保護・伝承された仮面劇は、政府に抗う手段として大学生たちにも利用された。つまり、1970年代軍事政権下で急激に推し進められた近代化・産業化によって多くの民衆が犠牲を強いられ、反政府運動は徹底的に封じ込められた。このような閉塞状況のなかで大学生は、仮面劇をはじめとする民俗文化のなかに込められた風刺精神を韓国人の心性として受けとめ、民俗文化再生運動を繰り広げ、政府に抗う手段として仮面劇を用いた。
本発表は、いくつかの仮面劇のなかでも、固城五広大保存会を事例として、政府の文化政策、そして、これに反目する学生たちの民俗文化再生運動との間で翻弄されつつ、それを受け入れていった演戯者に着目し、一地方の民俗文化が国民文化にまつり上げられる過程を検討してみる。
会場:東京大学(本郷キャンパス)法文1号館2階101番教室
韓国・朝鮮文化研究会 事務局
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